2021年10月末日発売
価格 1,200円

美術館紀行

世界の名画に出会える「陶板名画美術館」

大塚国際美術館

大塚国際美術館は1998年3月21日徳島県鳴門市に開館しました。大塚グループ創業の地、鳴門へ恩返しをしたいとの思いから、グループ創立七五周年記念事業として設立した日本最大級の常設展示スペース(延床面積29,412㎡)を有する「陶板名画美術館」です。陶板名画とは、陶製の板に原画の写真を忠実に転写し、細部に至るまで幾度もレタッチを重ね、限りなくオリジナル作品に近づけることに成功した美術陶板のことです。館内には六名の選定委員によって厳選された古代壁画から、世界26ヶ国一190余の美術館が所蔵する現代絵画まで至宝の西洋名画1000余点を陶板で原寸大に再現し、展示しています。日本にいながら世界の美術を体感することができます。

■現地さながらの迫力を味わえる陶板名画と三つの展示方法
当館では西洋美術をより深くそして楽しく理解していただくために、礼拝堂や聖堂などを空間ごと再現した「環境展示」、古代から現代に至るまでの西洋美術の変遷が美術史的に理解できる「系統展示」、時代や国を超えて、テーマごとに作品を鑑賞できる「テーマ展示」の三つから成っています。
ヴァティカンのシスティーナ礼拝堂の天井画および壁画《最後の審判》を再現した「システィーナ・ホール」は、当館の展示作品の中でも高い人気があります。複雑な曲面で構成された天井画は、陶板で制作することは技術的に至難の業として、開館当時には再現できずにいましたが、開館10周年記念事業としてこの三次曲面の再現に取り組み、天井画の完全再現が実現。ミケランジェロの偉業をさらなる迫力で体感していただけるようになりました。また退色劣化しない陶板の特性を活かし、オランジュリー美術館所蔵のモネ《睡蓮》を屋外に展示。「自然光のもとで作品を見てほしい」という画家の願いを叶えた空間です。周囲の池には、藤棚や睡蓮の花が見られ、名画とともに四季折々の花も楽しめる癒しの空間です。

■Play Art アートを遊びつくす
当館では絵画を様々な切り口から紹介するイベントを開催しています。2020年度はイタリアをテーマにイベントを展開。ミラノやフィレンツェにある作品を、イタリア周遊さながらに巡るギャラリートークは、約1000点の西洋絵画が揃う陶板名画美術館ならではの企画です。レストランでは、イタリアのマンマの台所をイメージしたアートランチを季節替わりで提供、カフェではイタリアの天才レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画にちなんだ「モナリザのパンケーキ」を考案しました。また「最後の晩餐」をモチーフに、地元食材で再現した「最後の晩餐メニュー」も人気の逸品です。私自身は、ルネサンス期の傑作「ヴィーナスの誕生」に登場するバラを使ったアートフラワーウォールを担当。シーズンごとに色の変化をつけ、バラの香りの演出を加える工夫をし、人足絶えないフォトスポットになりました。このように当館ではさまざまな体験を企画することで、見るだけではない鑑賞の楽しみをご提供しています。

■陶板名画美術館として
当館は2014年に、戦禍で焼失したゴッホの《ヒマワリ》(通称「芦屋のヒマワリ」)を原寸大再現、さらに2018年には開館20周年記念事業として、花瓶の《ヒマワリ》全七点を一堂に鑑賞できる展示室を新設しました。失われた名画の再現は、初代館長大塚正士の願いであり、加えて世界に点在する作品を一堂に鑑賞できる空間づくりは、陶板だからこそできる展示方法です。さらに陶板は2000年以上そのままの色と形で残るので、これからの文化財の記録保存のありかたに貢献するものと考えています。
厳選された芸術的、歴史的価値の高い西洋絵画の数々を、日本に居ながらにして鑑賞できることは、美術教育の面でも大変意義があると考えます。次世代を担う子どもたちをはじめ、さまざまな人の視野を広げる機会になるよう、そして美術への関心が高まる機会になるよう、今後も尽力したいと考えています。
(原文テキスト : 山側千紘)

山側千紘(やまがわ ちひろ)

徳島県生まれ。2005年、鳴門教育大学を卒業後、財団法人大塚美術館財団に勤務。学芸部広報担当係長。