会場:奈良県薬師寺 東回廊
会期:2014年10月8日(水)~10日(金)
世界遺産での展示
今年最大と言われた台風18号と19号が全国で猛威を振った10月。奇跡的に天候に恵まれた本展は、多くの来場者の方で賑わいました。
南都七大寺のひとつに数えられる薬師寺は、時の天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を祈願し建立を発願。飛鳥の藤原京に完成した後に、平城遷都に伴いこの地に移転されました。1998年には古都奈良の文化財の一部として、ユネスコより世界遺産の登録を受けた薬師寺でのイベントは弊社にとって特別な意味合いを持っていました。
薬師寺では毎年、天武天皇が崩御された10月9日(旧9月9日)の前日より、日本の礎を築かれたご遺徳を偲び天武忌の法要と奉納行事を行っており、日没後は1000基の献燈が供えられ、白鳳迦藍を幻想的に包み込みます。今年は初の試みとして、作品をデザインとした特別燈籠が140基、回廊に沿って展示され、来場者達を迎えました。
天武忌
10月の奈良は本格的な観光シーズンを迎えます。全国から訪れる旅行者と、修学旅行生達とで溢れかえり、薬師寺もその例外ではありませんでした。特に開催初日となる10月8日は、昼間より特別行事が行われた為、多くの参拝者が訪れました。本尊・薬師如来の従者とされる十二神将らにふんした行列が、本展の燈籠を展示した回廊を練り歩く練供養が営まれた際は、多くの見物客で会場は溢れかえり、カメラを手にした外国人の姿も多く見られます。夜には大講堂前に並べられた燈籠と回廊に設置された作品の燈籠とが境内を照らす万燈会(まんとうえ)が行われ、ソプラノ歌手正岡祐子さんの献歌、本展出展作を記した巻物の奉納式も合わせて行われました。
偶然にも、当日はおよそ3年ぶりの皆既月食と重なっており、日没後も会場から人の姿が減ることはありませんでした。燈籠の灯りに浮かび上がる薬師寺と徐々に消えゆく月の姿をカメラに収めようと、多くのアマチュアカメラマン達が境内に訪れ、神秘的な夜を楽しんでいました。
懇親会
日没後に行われる奉納式典に先駆け、夕刻からは薬師寺の門前にあるレストランAMRITにて、ご来場頂いた出展者の皆様との懇親会が開かれました。AMRITとは、サンスクリット語で「不老長寿の薬」を意味しており、薬師寺の本尊・薬師如来の御威光と合わせて、ご出展頂いた皆様のご健康をお祈りする意味も込めて正岡先生にご紹介を頂きました。
懇親会では、弊社代表のスピーチと正岡明先生のご挨拶、そしてご来場頂いた出展者の皆様とで食事を楽しみました。
国民みらい出版代表取締役小林義隆ご挨拶
本日はご多忙中のところ、天武忌薬師寺奉納文学祭「まほろばのあかり2014」にお越し頂き、誠にありがとうございます。本展開催にあたり、全面プロディースしてくださいました正岡明先生および、ご出展作家の方々には厚く御礼申し上げます。国民みらい出版の代表と致しまして一言ご挨拶申し上げます。
本展は、奈良薬師寺において毎年10月8日に執り行われている天武忌の万燈会に合わせて、奉納する詩歌作品・書作品を灯籠にし、展示する展覧会です。本来はユネスコにより世界遺産にも認定されている「薬師寺」という場所は、こういったイベントで貸し出しされる場所ではないのですが、さきほどもご紹介しました正岡明先生が地元奈良在住ということもあり、開催にあたってご尽力(じんりょく)下さり、実現の運びとなりました。正岡子規の孫として、奉納する作品の選出にも関わってくださっています。出展された作品は1本の巻物にまとめて本日、薬師寺に奉納させて頂きます。これは天武忌に執り行われる薬師寺の行事の一つでもあります。これも一重に、皆様の素晴らしい作品があって実現する事となりました。改めてお礼申し上げます。
最後に、今年は御岳山の噴火や広島の土砂災害など、未曾有の自然災害が日本を襲っています。被害に遭われた方々の一刻も早い回復を祈りつつ、開会の挨拶とかえさせて頂きます。本日は誠にありがとうございました。
正岡子規研究所所長 正岡明
皆様、ようこそご遠方より奈良へお越し頂きました。この度、名刹・薬師寺にて「まほろばのあかり展」を開催できましたこと、偏に皆様のお蔭と感謝申し上げます。台風一過、今日は天候にも恵まれ、満月で、しかも皆既月食。そして奈良は今、万葉集にも詠まれた秋草が咲き乱れております。
私が今回の総合プロデューサーとして薬師寺さんに交渉にあがったのは、昨年の9月の事でした。紆余曲折を経て今日という日を迎える事ができ、感無量であります。
私の祖父、正岡子規も明治28年に薬師寺を訪れており、仏足石について「千年のつゆに消えけり足の跡」と句を詠んでおりますが、その地で行うイベントに私自身か携われたことに、浅からぬ因縁のようなものを感じます。
奈良は灯り、そして火に大変縁の深い町です。奈良の行事と言えば、正月明けの山焼に始まって、3月のお水取りの松明の火、5月に行われる興福寺の薪能の篝火、そして節分とお盆に灯される春日大社の万燈籠、高円山の大文字の送り火。これらは皆、春日原始林などの暗い山を背景に、闇の中でより炎が浮かび上がってきます。今夜も千基の置燈籠、そして皆様の作品を記した140基の燈籠との壮大な灯の饗宴が繰り広げられます。そしてその後には、本展出展作の中から一部を作曲したものを、ソプラノ歌手にして恐縮ながら私の妻である正岡祐子より献歌させて頂きます。また、明日は御希望者の方々に、私の監修致しました「子規の庭」をご案内いたします。どうか秋の奈良での一時を心ゆくまでお愉しみ下さいませ。
最後に
「まほろばのあかり展」は、1300年以上の歴史を持つ、薬師寺の御好意により弊社のイベントとしては、かつてないロケーションの中で開催されました。
歴史的建造物内での展示ということもあり、作品の燈籠に用いる光源は蝋燭のあかりではなくLEDを使用し、かつ当日の厳かな雰囲気を害する事の無いよう、光量の調節を厳密に行いました。多くの来場者から芸術の新しい鑑賞方法だった、来年はぜひ参加してみたい等、大変ありがたいお言葉を頂戴致しました。
本展を成功させることができた事は、偏にご出展者皆様のお蔭であり、会場を御提供頂いた薬師寺様、正岡明先生その他の皆様にも改めて御礼を申し上げます。
これもまた偶然ではございますが、本展の開催直前に、日本人が開発したLEDの技術がノーベル物理学賞を受賞したと報道がありました。今回の燈籠でも利用したこの技術が、後世に残るものとして世界に認知された事を大変嬉しく思っております。今回ご出展頂いた皆様の作品も同様に、後世に残せた事、奉納に携われた事を喜ばしく思います。至らぬ点は多々ございますが、今後とも変わらぬ御指導とお力添えを賜りますよう、切にお願い申し上げます。