2021年10月末日発売
価格 1,200円

美術館紀行

千葉市美術館がリニューアルオープン1周年

開館25周年を迎えた千葉市美術館は、2020年7月にリニューアルオープンした。
拡張リニューアル目玉の一つは、コレクションのハイライトを常に楽しむことができる常設展示室。東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を控え、海外からの来訪者にもアピールする美術館であることが求められることから、「房総ゆかりの作品」「近世・近代の日本絵画・版画」「現代美術」の三つの分野にわたるコレクションが常設展示室されるようになった。たとえば浮世絵の展覧会と現代美術の展覧会では来館者の層が全く異なるのが常であったが、常設展示室ができることによって、来館者層の変化が期待されている。
もう一つは『こどもアトリエ』と『ワークショップルーム』。子どもがアートを体感できる参加・体験型の施設である。これらは「アーティストとつくる子どものための空間」として構想された。「コミュニケーションがはじまる」、「五感でたのしむ」、「素材にふれる」、いずれかのテーマに沿った作品づくりが可能なアーティストを、3ヶ月をワンクールとして招聘し、滞在制作を公開し、空間に合わせた新作インスタレーションの制作や、オープンワークショップの仕組みの開発・空間デザインを、会場を訪れた人々とかかわりながら進めている。いつでも誰でも、空間が変化し続けるクリエイティヴな「つくりかけ」の状態を体験できるというものだ。
その他、市民アトリエ、図書室、カフェ、ショップ等が新設された。

担当キュレーターは次のように語っている。
「子どもに限らず、美術体験において創作活動という場合、創作/つくるのは、形ある造形作品とは限らない。自分が何をしたいか考え、主体的に取り組み表現すること。他者との関わりを通じて自分の思考や表現を更新していくこと。自分たちの場を自らつくり育てていくこと。「つくりかけラボ」では、きっかけと仕組みを作るのはアーティストだが、それがどのような形に展開していくのかは、もちろんアーティスト本人にもわからない。
美術館は社会教育施設の一つに位置づけられているが、学校教育を筆頭に連想されるどこか堅苦しいイメージからか、教育という言葉はアートの自由さにはそぐわないと感じる向きも一般にはあるだろう。だが、教育=学びとは人の成長を促すものであり、人はその気になれば(変化することを厭わなければ)何歳になっても成長し続けることができる。学びこそが人を自由にするといえるだろう。社会的な学びは他者との関わりの中から実現される。今回拡張されるフロアにおいて「つくりかけラボ」とともに参加・体験型事業の一つとして提案する「みんなでつくるスタジオ」は、人々が興味とスキルを持ち寄って学びの場をつくり上げていくワークショップ活動である。学びのきっかけをつくる側と学び手の立場は固定ではなく、辿り着くべき一つの正解もない。それはあらゆる年齢の人々を巻き込みながら、美術館という枠をも越えて展開していく可能性を秘めている。
美術館は生き物である。生き物とは成長し続けるものであり、成長とは変化である。そのためには、コレクションを育み、関わる人々や社会とともに柔軟に変化し続ける、つくりかけの状態に積極的な意味を見出す場でありたい。拡張リニューアルに向けて準備を進めていく中で、あらためてそのようなことを考えている」
(原文テキスト : 山根佳奈 ※本文はリニューアルオープン前の原稿を元に一部加筆修正しています。2021.5.7)

山根佳奈(やまねかな)

2003年より千葉市美術館に勤務。現在、同館主任学芸員。
展示事業、教育プログラムに携わりながら、千葉大学等との連携によるアウトリーチ活動を通して、アートによる学びや地域社会におけるアートの意味と可能性について考える。