2016年10月8日(土)~10日(月)
奈良県薬師寺 特設会場(中門、回廊周辺)
主催:薬師寺奉納芸術祭 まほろばのあかり2016実行委員会
企画・運営:株式会社国民みらい出版
後援:毎日新聞奈良支局、奈良テレビ
奈良薬師寺 天武忌・万燈会
南都七大寺のひとつに数えられる薬師寺は、天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を祈願し建立した寺院です。飛鳥の藤原京に完成した後、平城遷都に伴い現在の地に移転されました。白鳳期の美が集結していると言われる荘厳な「白鳳伽藍」は、金堂、大講堂、東塔・西塔、などが建立されており、1,300年の悠久の時を重ねてきた歴史を目の当たりにすることができます。1998年には古都奈良の文化財の一部として、ユネスコより世界遺産の登録を受け、世界中から注目されています。
数多くの年中行事が執り行われている薬師寺の代表的な行事のひとつに、天武忌・万燈会があります。毎年、天武天皇が崩御された10月9日(旧9月9日)の前日より、小倉遊亀画伯が奉納した天武天皇・持統天皇・大津皇子の御絵像を白鳳伽藍大講堂内に祀り、日本の礎を築かれた天武天皇のご遺徳を偲ぶ法要と奉納行事が厳かに執り行われます。日中の法要では、本尊・薬師如来の従者とされる十二神将らに扮した行列が、境内や芸術祭会場の回廊を練り歩く練供養、そして日没後はお供えされた1,000基もの灯籠に灯がともる万燈会。
参拝客を幽玄な世界へと誘う仄かな灯りが、暗闇の中から薬師寺を照らし幻想的な空間を創り出します。
『薬師寺奉納芸術祭 まほろばのあかり 2016』
開催初日平成28年10月8日は天候にも恵まれ、多くの参拝客や修学旅行生が奈良の秋の風物詩でもある天武忌・万燈会を見学に訪れていました。とりわけ注目を浴びていたのは、本尊薬師如来の従者と言われる十二神将に扮した行列が、境内や芸術祭会場の回廊を練り歩く練供養です。それぞれの紙面(かみおもて)をつけた十二神将が境内を練り歩き、回廊から中門を経て法要が営まれる金堂へ入堂。参拝者が盛んにカメラのシャッターを切っていたのは十二神将それぞれが壇上に上がりポーズを決めた瞬間で、会場内には歓声と拍手が響き渡りました。また、大般若経600巻を短時間で読み上げる大般若経現読法要や、1998年に明日香村で出土した木簡に「恵那の里から朝廷に次米が贈呈されていた」という意味の記述があったことから始まった次米献納、山伏に扮した行者衆が祈願する柴橙大護摩の儀式が営まれました。
15時30分からは、日没後に行われる天武忌法要・万燈会に先駆け、日本料亭の天平倶楽部にて懇親会が執り行われました。はじめに弊社代表取締役の小林義隆、続いて正岡子規研究所主宰の正岡明先生のご挨拶から始まった懇親会は終始なごやかな雰囲気に包まれていました。お料理も中盤にさしかかった頃、正岡先生が各テーブルへ出向かれ、出展者の方々とご歓談し、美しい庭園をバックに記念撮影をされていました。
日も暮れかけた頃、夜の天武忌法要・万燈会に向けて薬師寺へ移動。18時30分から始まる天武忌法要までの間、作品が展示されている回廊で談笑されたり、作品の前で写真撮影をされたりと、仄かな灯りがともる中で出展者の笑顔がひときわ輝いて見えました。18時を過ぎると境内に配置された1,000基の置き灯籠に灯りがともされ、会場内は厳粛な雰囲気に包まれました。弥勒三尊像の御前に祀られた天武天皇・持統天皇・大津皇子の御絵像が見守る中、導師・式衆が大講堂に入堂し、厳かに天武忌法要が始まりました。弊社の小林義隆・正岡明先生も出展者の作品現物、巻物(詩歌作品)、複製品(アート作品)を納めた桐箱を掲げ、導師・式衆に続き回廊から大講堂へと練り歩いた後奉納させていただきました。
由緒ある伝統的建造物内で『薬師寺奉納文学祭 まほろばのあかり 2016』が開催できたことは弊社にとって何よりも励みとなり、今後の活動に繋がるイベントとなりましたことをここにご報告いたします。今後も照明と詩歌・書作品、挿し絵という新たな芸術表現である「まほろばのあかり」を未来に繋いでゆきたいと考えております。
懇親会会場 天平倶楽部
多くの著名人が訪れた老舗旅館「対山楼」跡地にある天平倶楽部は奈良を代表する日本料亭です。室内から見渡せる泉水式日本庭園は、春は桜、夏はホタル、秋は紅葉そして冬の雪景色を眺めることができ、大和伝統の料理を古都ならではの風情と共に堪能していただけます。
そして敷地内には、正岡子規の理想として思い描いていた庭園「子規の庭」が正岡明先生監修のもと作庭されました。子規ゆかりの奈良の地を俳句や近代・現代文学に関心のある方々の交流の場として、また様々な活動を行っていく文化拠点として活用していただくため、天平倶楽部内には「子規の庭」保存会が創設されています。
懇親会ご挨拶
国民みらい出版 代表取締役 小林義隆
本日はご多忙のところ、薬師寺奉納芸術祭「まほろばのあかり 2016」にお越しいただき、誠にありがとうございます。本展開催にあたり、全面プロデュースしてくださいました正岡明先生および、ご出展者の方々には厚く御礼申し上げます。国民みらい出版の代表としまして一言ご挨拶申し上げます。
本展は、奈良薬師寺に於いて毎年10月8日に執り行われている天武忌・万燈会に合わせて、奉納する詩歌・アート作品を灯籠にし、展示する展覧会です。本来はユネスコにより世界遺産にも認定されている「薬師寺」という場所は、このようなイベントで貸し出される場所ではないのですが、先程もご紹介しました正岡明先生が地元奈良在住ということもあり、開催にあたってご尽力下さり、実現の運びとなりました。正岡子規の孫として、奉納する作品の選出にも関わってくださっています。出展された詩歌作品は1本の巻物にまとめ、アート作品は複製品を桐箱に納め、それぞれ本日、薬師寺に奉納させていただきます。これは天武忌に執り行われる行事のひとつでもあります。これもひとえに皆様の素晴らしい作品があって実現する事となりました。改めて御礼申し上げます。
最後に、今年は熊本の地震をはじめ、例年にない数の台風が日本を襲っています。被害に遭われた方々の一刻も早い回復と復興を祈りつつ、開会の挨拶と代えさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。
正岡子規研究所主宰 正岡明先生
皆様方、ようこそご遠方より、「まほろば大和の国」へお越し頂きました。またこの地「子規の庭」にもお越しいただき誠にありがとうございます。
何度もお会いした方もございますし、また初めての方も結構いらっしゃるようですので改めて私の自己紹介と「子規の庭」のこと「薬師寺」のことを簡単にご説明したいと思います。
私、正岡明は明治の俳人・歌人・正岡子規の末裔に当たる者でございます。実は私の父、正岡忠三郎は子規のいとこに当たります。子規には律という3歳下の妹がおりましたが、2人とも子どもがおらず、正岡家が途絶えるということで子規の死後12年経って父が妹・律の養子に入って実質的に子規を継ぎました。従って私は律の孫ということになります。
私は元々、植物を中心とした庭造りや樹木医の仕事をやっておりましたが、子規の100回忌を機に子規の世界にシフトし、子規やその叔父で私の実の祖父でもある外交官の加藤拓川を中心とする明治の人物群の顕彰そして俳句の選や評論なども手がけております。
10年ほど前から国民みらい出版の顧問として詩歌の評論執筆を手がけ、この度の薬師寺奉納芸術祭「まほろばのあかり 2016」の監修もやらせていただいております。
さて、この「子規の庭」は、開園してこの10月26日でちょうど10周年となります。この地は、江戸時代「対山楼」という老舗旅館がありまして、明治28年の秋に28歳の子規がこの宿に3泊いたしました。たまたま、この対山楼の末裔の方が子規のサイン入りの宿帳を持っておられたのです。対山楼は昭和37年に廃業しましたが、たまたまこの地に1本の柿の老木が残っていたのです。子規は対山楼に泊まった時のことをホトトギスという俳句雑誌に次のように詳しく書いています。「夕飯を食べて、柿が食べたくなり宿の女中に所望したらどんぶり鉢いっぱいに柿を持ってきた。その柿をむいてもらって食べていると鐘がボーンと鳴った。女中に聞くと東大寺の初夜の鐘ですと答えた。柿も旨いし、女中もきれいだ。鐘の音もよいとうっとりした」。その柿の木が残っていて、子規が食べたかもしれないということになり、この柿を中心に子規が好んだような野趣のある庭を造ろうとプロジェクトを立ち上げ、この天平倶楽部がオーナーとなって完成したわけです。子規は3日後に法隆寺へ行き「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」の句を作るのですが、実は対山楼での夢のような至福のひと時が強く心に残り、この句の着想はこの東大寺の足元で出来ていたのではないかというわけです。今、秋の草花が咲きこぼれ、柿も実っており一年で最も美しい子規の庭を存分にお楽しみください。
さて、これから参ります西の京の薬師寺は天武天皇が妻(後の持統天皇)の病気回復を祈って発願したもので元々藤原京にあったのですが、平城京遷都で今の地に建立されました。度重なる火災で焼失し荒廃していた境内を明治時代から再建、特に昭和に高田好胤管主が、100万巻の写経で浄財を築いて金堂などを再建したのは有名です。その北側にある今日の法要が行われる大講堂には弥勒三尊像が安置されておりますが、その裏に仏足石が安置されております。対山楼に泊まった時、正岡子規は薬師寺も訪れこの仏足石を見て次のような句を作っております。
「千年の露と消えけり足の跡」
このようなことを思い描きながらこれからのひと時をお楽しみください。ご清聴ありがとうございました。
■最後に
第二回となる薬師寺奉納芸術祭「まほろばのあかり 2016」を無事執り行い成功させることができたのは、ひとえにご出展いただいた皆様方、会場をご提供いただいた薬師寺関係者の皆様方、そして全面プロデュースいただいた正岡明先生のお陰であることは申し上げるまでもございません。心より厚く御礼申し上げます。
日本の伝統的な照明器具である灯籠に詩歌、書、アート作品を和紙にしたためた伝統的な芸術品は、暗闇の中で浮かび上がる日本ならではの情緒を表現し、鑑賞者に鮮烈な印象を与えたことは間違いありません。そして皆様方の展示作品を薬師寺に奉納し、後世に残すことができたことは、大変感慨深いことであり、弊社の歴史に名を刻むイベントとなりました。これからも日本の文化を通して皆様方の作品をお披露目できる企画を提案していきたいと考えております。
今後とも皆様方の更なるお力添えを賜りますようお願いするとともに、皆様方のご発展を心よりお祈り申し上げます。