芸術灯籠展「まほろばのあかり」報告書

会 場 東大寺二月堂参籠所
会 期 2021年08月5日(木) ~2021年08月7日(土)

 東大寺は、奈良時代に聖武天皇が国力を尽くして建立した寺であり、古代から現代に至るまで広い信仰を集めてきました。日本文化に多大な影響を与えてきた寺院であることは異論を挟む余地がないでしょう。
 大仏殿だけでなく、懸造り(かけづくり)という斜面に建てられた建築様式となっている二月堂もまた、日本の国宝に指定されています。奈良市内を一望できる大屋根の展望でも知られていますが、どのような目的で使用されているか、実はあまり知られていません。
 二月堂には、東大寺の僧にも御開帳が許されない絶対秘仏「十一面観音」が祀られています。どのようなお姿なのか誰も知らない、善光寺、浅草寺と並ぶ日本の三代秘仏の一つです。この絶対秘仏である「十一面観音」を安置するための仏堂が二月堂なのです。
 二月堂では、籠松明(かごたいまつ)に火をともす「お松明」、本尊に供える香水を汲み上げることで仏に罪過を懺悔する「お水取り」で有名な「修二会(しゅにえ)」という春の訪れを告げる行事が毎年多くの参拝客を集めていますが、2020年は新型コロナの影響で一部非公開、本年は制限付きのもと実施、配信公開されました。2月には〝お水取り「しないなら東大寺は解散」〟という狹川住職の決意表明が話題となりました。

その昔、津々浦々の神が二月堂に招かれたが、若狭国(福井県)の遠敷(おにゅう)明神が魚釣りに興じて遅刻した。
諸国の神々に咎められた遠敷明神が二月堂の下にある岩の前で懺悔の祈りを唱えたところ、岩が割れ、清らかな甘水が湧き出た。

 いいつたえは文献によって細部が異なりますが、この甘水を「お香水(こうずい)」と呼び、汲み取った香水をご本尊に供えられたのがお水取りの始まりとされています。
 ※「十一面観音」の光背(仏身から発する光明を象った装飾)は奈良国立博物館に収蔵されており、お水取り展でのみ御開帳されます。
 芸術灯籠展「まほろばのあかり」は、そんな悠久の日本史と深い関わりのある二月堂の参籠所で開催致しました。
 新年の伝統行事「山焼」に始まり、3月は修二会の「お松明」、5月は興福寺の「薪能の篝火」、春日大社で行われる節分とお盆の「万燈籠」、東大寺の「燈花会」、高円山の「大文字送り火」まで、奈良は〝火と灯り〟に縁の深い土地です。本展は、芸術創作者の皆さまの思いを清浄な灯りの象徴である紙灯籠に込め、新型コロナウイルス終息へ導く希望の灯火(ともしび)となることを願って企画したイベントです。
 殊に、万葉の都・奈良を舞台に実施することで、大変意義深い行事になることも期待しました。
 設営前日に新型コロナウイルス感染症による全国の緊急事態宣言の区域が拡大。奈良は対象外となったものの、例年、全国から100万人の来客を集める奈良を代表する風物詩「燈花会」が直前に中止となってしまいました。
 それでも、開催期間は連日快晴。コロナ過とは思えない多数の参拝客で賑わいました。 
 今回展示させて頂いた121基の芸術灯籠は、挿絵を付けた詩歌文学作品(俳句・短歌など)が半数を占め、書や絵画、工芸などの作品も会場を華やかに彩りました。  灯籠の形状は、東大寺の大仏にあやかって高さ88cm、幅25cmのスタンド照明型の直方体で製作。といっても全面が作品ではなく、中央部分の高さは20cmに転写しましたが、それでも通常の紙灯籠より大型になりました。
 会場の二月堂参籠所は、入口側から見て反L字型の二部屋になっており、詩歌文学作品と絵画などの視覚芸術を部屋ごとに分けて配置しました。
 毎朝、開場と共に全ての雨戸が外され、東屋のように開放的な環境となります。二月堂参籠所は高台になっているため、来場者には春日山の原生林から運ばれたマイナスイオンの風に包まれて観賞をお楽しみ頂きました。  二月堂の大屋根は「奈良で一番美しい眺め」として知られていますが、会場の参籠所からは美しい竹林と大仏殿の鴟尾が見下ろせるため、作品観賞だけでない楽しみを覚えた来場者も少なくないようでした。
 もちろん、薄明かりの中、幽玄に浮かび上がる灯籠の佇まいには来場者の殆どが魅了されていたようです。日本ならではの情緒にあふれた幻想的で荘厳な装いを得た作品は、新たな魅力を放っておりました。
 通常、二月堂への参拝は石段を登り、屋根付きの登廊を下るのが一般的ですが、〝まほろばの灯り〟に誘われた鹿たちも興味津々で石段の下に集結していたのが印象的でした。  近鉄奈良駅から徒歩30分という交通の便の悪さにも関わらず、本展には関東、近畿、福岡からも出展者の皆様にご来場頂きました。また、一般の来場客はご近所の老夫妻から全国の10~20代のファミリーまで幅広く、平均30分程度滞在されていました。
 来場者からは、「こういう時期だからこそ、励みになった」、「夜見られないのは残念だった。コロナが終息したら改めて見てみたい」、「こういった形でアート鑑賞できるとは思わなかった」等のお言葉を頂戴いたしました。
 今回は新型コロナウイルスが猛威を振るう中でのイベントとなりましたが、そもそも東大寺と疫病との関わりは、100万人以上が死亡したとされる1300年前の天平の疫病(天然痘)から続いているとも言えます。というのも、東大寺および盧舎那仏像は、天然痘の流行に個人的な責任を感じた聖武天皇の命によって創建されたからです。以降、東大寺では、定期的に疫病退散の法要が実施され、新型コロナウイルスの終息を祈願する祈祷が毎日行われています。
 コロナ過でなければ、燈花会と重なり立錐の余地もないほど大混雑となっていたのではと思料されます。ゆっくり観賞頂けたことは不幸中の幸いかも知れません。  尚、イベントにおける時間短縮等の自粛により17時で閉館となり、灯籠観賞の醍醐味である夜間の観賞を制限されました。夜間点灯の雰囲気は掲載写真でお楽しみ下さい。また、会期中のコロナ対策として、来場者の検温と消毒、エントリーシートへの記入にご協力頂きました。
※期間中防疫対策
1.来場者、スタッフ、設営業者へのマスク着用の義務付けを徹底。非着用者の入室を禁止しました。
2.アルコールによる手の消毒、体温検査の義務付けを行い、37度以上の入室を禁止しました。 3.会期中は障子、雨戸を撤去し、窓は全て開放しました。 4.期間中、20名以上の入場を制限しました。 5.会場内での飲食を禁止。スタッフの給水はバックヤードに限定しました。
6.会期中の受け付けスタッフは2時間ごとにアルコール消毒を義務付けました。
7.来場を希望するイベント出展者については事前に日程を確認し、来場者数の調整を行いました。

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